トピック入管業務(リアルなお話)<定住者>
この仕事を長くやっておりますと、テレビドラマの様な展開を経験することが度々ございます。
今回は、定住者の更新手続きに伴い経験したお話をしたいと思います。
登場人物は以下の通りです。
申請人:郭さん(仮名)、女性、台湾人、在留資格「定住者」、美容専門高校2年生(美容師養成)
申請人の実母:蘇さん(仮名)、女性、台湾人、在留資格「日本人の配偶者等」
申請人の養父:田中さん(仮名)、男性、蘇さんの夫、日本人、法人経営者
話は5年前に遡りますが、日本人の田中さんから連絡がありまして、台湾人の蘇さんと結婚したので、妻を日本に呼び寄せたいとの依頼を受けました。
私は入管に認定証明書交付の申請をして、認定証明書を受け取りましたが、蘇さんは「日本人の配偶者等」の在留資格を得て、日本での生活を許されました。
それから3年後のことですが、ご夫妻から蘇さんの娘(いわゆる連れ子です)、郭さんを日本に呼び寄せたいとの依頼を受けました。
この場合郭さんが該当する在留資格ですが、「日本人の配偶者等」である母の実子として、在留資格「定住者」の資格該当性があります。
そこで私が入管に在留資格の申請をしまして、郭さんは「定住者」の在留資格を取得し、日本での生活を許可されました。
それから程なくして、田中さんと郭さんは養子縁組をして親子(父娘)となっております。
しばらくは家族3人で穏やかに暮らしておりましたが、蘇さんは日本での生活が合わなかった様で、何も言わずに黙って一人で母国に帰ってしまいました。
田中さんは残された郭さんに意思を確認しましたが、郭さんは母の元には戻らず、日本に残ることを主張しました。
郭さんは日本の美容専門高校で美容師の勉強をしており、日本で美容師に成ることを目標にしていたのです。
本年の3月に郭さんの在留資格「定住者」の更新期限が迫っていましたので、田中さんから更新申請の依頼を受けました。
前段の話が長かったですが、ここからが本文だと考えて下さい。
郭さんの在留資格「定住者」は、元々「日本人の配偶者等」を所持する蘇さんの実子として付与された在留資格でした。
蘇さんは母国へ帰ってしまっており、既に蘇さんの「日本人の配偶者等」の在留資格は失効していました。
従いまして、郭さんの「定住者」としての基礎である「日本人の配偶者等」の在留資格が失効していた為に、郭さんの「定住者」としての資格該当性も失っていました。
本来更新申請は簡単な書類の提出で済ませることが出来ますが、今回は詳細な理由書を作成する必要がございました。
理由書の中心としたのは、経済的に恵まれた環境であること、美容専門高校で優秀な成績を修めていること、母国で親族が郭さんを受け入れできる状況では無いこと、を証拠を示しながら細かく立証していきました。
申請書類の提出後、何度も入管から追加資料の要請が有りましたので、相当数の追加書類を作成し入管に提出しました。
私は最善を尽くしたとの充実感と、絶対に許可に成るものと信じておりましたが、後日出頭日が記載されたハガキ(不許可相当のハガキ)が届きました。
私は大変なショックを受けましたが、直ぐに田中さんに電話をしまして、残念ながら不許可の旨を説明し、出頭日に郭さんと一緒に入管に来るように伝えました。
電話口では田中さんも愕然とされていましたが、娘に何と言っていいか分からないと嘆いておられました。
出頭日に入管の待合室で、私と、田中さん、郭さんと3人で待っていたところ、女性の審査官に呼ばれて個室に入りました。
審査官からは郭さんに文書が渡されて、郭さんの母の在留資格「日本人の配偶者等」が失効していることにより、郭さんの「定住者」の更新は許可出来ない旨が説明されました。
郭さんは茫然としていましたが、田中さんはもう黙ってはいられないとばかりに、「そんなことを言われても、この子は他に帰るところはないんですよ。」と叫びました。
叫び声を聞いても審査官は冷静さを失わず、「話は最後まで聞いて下さい。」と静かに言いました。
これから審査官が不許可の理由を、詳細に説明するものと考えました。
「とわ言え、我々としても娘さんの大変な状況は理解出来ます。「定住者」の更新を許可することは出来ないけれども、「特定活動」という在留資格があります。もし「特定活動」の在留資格で良いのであれば、「定住者」から「特定活動」への変更申請を認めることを、検討したいと思っています。」と審査官は言われました。
田中さんは審査官が話した内容を理解出来なかった様ですが、私は瞬時に審査官の意図を理解しました。
私は審査官に対して思わず、「ありがとうございます。特定活動を受入れますので、変更の許可を宜しくお願いします。」と言っていました。
私から田中さんには、「入管は特定活動として、娘さんの日本での在留を認めてくれたんですよ。本当に良かったですね。」と言いました。
田中さんと郭さん、父娘はその場で号泣でしたが、私も少しもらい泣きしてしまいました。
面談が終わり個室から出る際に、私から審査官にお礼を言いましたが、審査官は「この資格は簡単に出るものではないのですよ。良かったですね。」と話してくれました。
以上で話は終わりますが、入管は恐ろしいところですが、心優しい面もあるということです。